あたいはのらネコのミミーよ

あたいはのらネコのミミーよ

 しかし、今年の冬は特別寒かったわ! 丸くなってジーと絶えていたので、猫背がよけい丸くなっちゃったよ。
あたいたちはのらネコだから仕方ないけど、飼いネコはいいなあ! コタツでポカポカで、おいしいおやつもあるし、
のらネコの運命でもたまには気分がめいるんだよ。  格差がありすぎてネ!

 最近あたりがモワーとして、少し春の気配を感じるの。 今日は久しぶりに自慢のネコポーズでストレッチでも
しようかなあ。  あたいは、もう小ネコから乙女に変身したんだよ。 あたいたちはこのかいわいでは、ちと名の
知れたシャムネコの、のらさんよ。 ひいばあちゃんのころより、このなわ張りを守っているので、何代も続く血統書
付きなんだよ。  黒シャムの中で、あたいだけひと際目立つ、白黒のアイドルよ。

 あたい達は、エサを求めてウロウロと、歩いている途中に、花好きなおくさんの家があるんだよ。のらネコと
小鳥達にとっては、おくさんのお家はオアシスなのよ。  新鮮なお水がいつも飲めるし、寒い冬は小屋があって、
ちょっとしっけいして休めるし、あつい夏は木陰があっちこっちにあってすずしいし、 時々、花園の片すみに眠る
愛犬の上に、ごちそうがいっぱいあるのを見つけ、仲間といっしょに食べるのを楽しみにしているんだよ。
いつも粗食だから、おいしくて天国の味がするよ。 「おいしいニャン」  小鳥達は冬、お花の蜜を求めて色々な、
蕾をつついているよ。  最近は木蓮の蕾をつつきだし、おくさんが毎年咲くのを、楽しみにしていて (赤・白・黄)
と、咲いたときは、半カケでひどいものよ。 「アラマア!! 今年もやられたわ」 と、ため息をしているおくさん、
でも小鳥さんも精一杯生きているので、仕方ないわネと、ゆるしてあげてるよ。

 ここのおくさんはネ、無類の花好きで、三度のご飯よりお花が大好きなの。  海外旅行や、ブランド品、宝石には
全く興味がなく、いつもお花がお友達みたいだよ。  朝起きると、外にまっしぐら、モーニングコーヒーとやら
(実は缶コーヒーだけど)を、片手にガーデンを一回りするのが日課。  ほとんど一年中、外にいるから、もう日に
焼けて大変。  昔は色白だったんだって、信じられないよ。  足腰はヨタヨタだし、  お腹の回りだけは万年雪
みたいに、たまる一方だし、 それに比べ、あたいなんかまだ若いから、ピョンピョン、 はねたり、とんだり、自由
自在だよ。

 おくさんは気分だけは若いつもりでも、だんだんと、空の彼方にかすんでしまう若かりし頃を、フッと 懐かしむ
ように遠くを見つめているよ。  「越えた、七坂、四十路坂ーーー」 と、歌っている後姿に、あたいは人の世の
哀愁というものを感じるよ。

 旦那さんは温厚でいい人なんだけど、 最近は結構喧嘩をしているんだよ。  だいたい旦那さんの大きな声が
しているときは、そうなんだ。  そんな時おくさんは、悲しいさみしそうな表情で、お花を見たり、眠る愛犬の所へ
行き、話しかけているのよ。  あたいは、ジーッと隠れて見ていたの。  おくさんは哀しい過去を、走馬灯の様に
思い出して、  「憎や、 恋しやーーー」  と、歌いながら一回りしているんだよ。

 おくさんのお庭は一年中 (春夏秋冬) 絶え間なくお花が咲いていて、 のらネコのあたいでさえ
「ステキだなー、心いやされるわー」  って、思うよ。  のらネコだってエサだけじゃないからね。少しは感性って
いうものがあるんだよ。

 お花は7色8色、なんてものではなく、100色、1000色、だよ。 何しろ自宅のお庭が花いっぱいになったら
回りにある畑まで花だらけ。  本当にドリームだよ。  おくさんたら、自分の名前をとって、
「ヒロコドリームガーデン」  なんて、 洒落た名前をつけちゃって、あたいは笑っちゃったけど、なかなか似合って
いると思うよ。  ドリームには、おくさんの長年の夢が一杯つまっているんだって。

 最近はあっちこっちから、色々な人達がお花見に来るようになって、昼間、あたいたちはジーッと隠れているん
だよ。  おくさんの愛犬たちは、みんなのら犬だったんだよ。 すて犬を見つけると、可哀そうで、飼ってあげる
んだよ。 数年前に亡くなった愛犬達は、花園の片隅に安らかに眠っているんだ。  「いいなあ!!」  
あたいもああなりたいなあー。 と、いつも思うんだよ。

 そうそう、あたいとおくさんとのなりそめを教えてあげるね。  あたいがまだ小ネコのころ、毎日同じコースを
おかあさんたちとウロウロしていたのよ。  そんなある日の事、おいしそうなにおいがして来て近寄って行って
見ると、おくさんが愛犬達にごちそうをお供えしていたのよ。  おそる おそる近寄って、目が会っちゃった。
胸の鼓動が 「ドキン ドキン」 でもおくさんは、優しいまなざしと笑顔で、どうぞと言って立ち去って行ったのよ。
その後、ちょっとしっけいして、仲間ともうパクパク。 「この世は天国」 と、ばかりにいただいたってわけ。

 それ以来あたいは、おくさんが大好きになり、少しづつ距離を縮めて、とうとう 門の中に入っちゃった。
旦那さんが大声を上げて、 「ホラ!! ヒロコが甘い顔をするから、こんな所まで、来ちゃったじゃないか!!」
って言っている。 あたいは 「ニャン ニャン」 と可愛くないたら、おくさんが出てきて、 「ミミーちゃん!!」
と言って、おやつをくれたの。  それ以来あたいは 「ミミー」 って言うのよ。  自分で言うのも何だけど、
チャーミングで可愛い名前を、あたいはとってもお気に入りだよ。

 人間様から見ると、のらネコは縄文時代のままで、のん気そうに見えるけど、最近は 「環境破壊」 で生きて
いくのが大変なんだよ。 昔々のひいばあちゃんの頃はよかったんだって。 今は毒の草やネズミを食べて、
次から次へと、兄弟は死んでいって、5匹で生まれたのに、2匹だけになっちゃって寂しいよ。  あたいたちに
は物欲はないから文明の進化には無縁だし、お金もいらないし、学校も行かなくていいんだ。  その日食べる
ものが見つかればいいんだよ。  「人間は大変だね。」  ブレーキの効かなくなった進歩は、この先どうなって
しまうのかなあ。  のらネコのあたいでさえ、心配でふるえがくるよ。

 やがて季節も暑い夏が過ぎ、さわやかな秋風と共に、おくさんとあたいの絆は深まっていった。  いつしか
あたいは、甘えておくさんの足元にからまりながら散歩をしたり、あったかいひざの上で 「ゴロゴロニャーン」
とだっこされるようになったのよ。

 そんなある日の事、あたいをだっこしているおくさんが、元気がなく悲しそうだ。
「ミミー、聞いてよ!」 と、何やらテレビで見た、幸せジワと苦労ジワの話を始めたのだ。
「私には苦労ジワが多くて、笑ってできる幸せジワがないのよ!!」 と、言って暗い表情だ。
あたいは途中までおくさんの話を聞いていたが、ついつい、気持ち良くて 「ゴロゴロニャー」 と、居眠りをして
しまったのである。 「ミミー 聞いてるの!」  と、いう声に  「ごめん、ごめん」  と、心よりあやまって、
うなづいた。  おくさんは又、辛く哀しかった過去を、思い出しているなあと、あたいは直感した。

 おくさんは顔に毛が生えてないから、苦労ジワなんて気になるけど、ミミーは毛だらけなので見えないよ。
でもネ、エサが見つからないとネコだって、毛並みが悪く、色つやがないんだよ。  その時、あたいは
「フッ」 と、 ある名案を思いついたのだ。  以前、おくさんが、お花に夢中になっている時の表情を、
遠くから見ていて気づいたのだが、そのうれしそうな表情は眩しい位で、シワなんて消えて見えなかったのを
思い出した。  おくさんの安物化粧品より効果てきめんなのだ。

 あたいは、なりふりかまわないおくさんは、女性であるのを忘れちゃったのかと思ったけど、
「覚えていたのだニャン!」  そして今日もあたいをだっこしてお花を見ているの。  あたいは即座に、
「グッドスマイルだよ!!」  と、言った。  本当におくさんの顔からシワが見えない位、笑顔になっていた
のだ。  あたいもあったかいひざの上で 「ゴロゴロニャン」 と、至福のひと時を過ごせたのである。
「ずーっとこのままでいたいなー」

 でも、のらネコの世界には、人間にはない厳しいおきてがあってね。
「まだ、おかあさんや兄弟とも一緒にいたいのに!」  春が近づくとこわい運命がまっているのよ。
せっかく、おくさんと仲良くなれたのに、あたいたち兄弟は、遠いすみかを求めて、離ればなれに旅立つ夜が
とうとう来たの。  あたいはおくさんに、 「ありがとうー、 ありがとうー」  と、何度も言いながら、おくさん
のお家を振り返り、 又、 少し行っては 振り返り、  涙は出てくるし、あたいの小さい足は思うように前に
進めなかった。  こういうのを後ろ髪引かれるって、いうのかなー。  それでもあたいは泣きながら、前へ
前へと歩いていった。

 とうとう遠い所へと来てしまったよ。  そんな事とはつゆ知らず、翌朝目を覚ましたおくさんは、
「ミミー、 ミミー」  と、いつものようにあたいの名前を呼んでさけんでいたわ。  いつしか現実に気づいた
おくさんは、泣きながら、あたいを探し出し、自転車に乗って、転びながら、四方八方探し回った。  あげくの
果てに、旦那さんの軽トラに乗って遠くの方まで、探し回っていたよ。

 その頃、あたいはね、遠くの町まで行く途中、大きな道を渡ろうとして、車にはねられ、道のはしに、チョコン
と死んでいたの。  もうあたいのたましいは、お空の上に行っちゃったのよ。  あたいはお空の上で、
おくさんの様子を全部見ていたんだよ。

 「おくさん、今までありがとう!!」  あたい今度生まれ変わったら、こんな優しいおくさんと、一緒に暮らし
たいなあ。  「あたいは短い命だったけど、幸せなのらネコだったよ。」  おくさんのあったかいだっこや、
おいしいおやつ、 いっしょにした楽しい散歩は 永遠に忘れないミミーの宝物だよ。  これからは小さい
お星様になって、お空からおくさんと花園を見守っているからね。

「おくさん!本当にありがとうね!」